2010年2月11日 のアーカイブ

アメリカズカップ・スペシャル・レポート7

2010年2月11日 木曜日

2月11日 バレンシア

今回のアメリカズカップのレースの予告信号は10時に発せられることになっている。

冬の朝10時6分にスタートとなると、関係者一同、夜明け前からもそもそ動き始め、レース艇の出艇は、まだ暗い7時前になる。日本のインカレの学生たちよりも早い。

バレンシアの夜明け(photo by Kazu Nsimura)

毎朝見るバレンシアの光景は、だからこの写真のような時間帯になる。

さて、今日はレイデイ。

アメリカズカップのレースに関しては何も起きません。

ワタクシも、今日はレースそのもの以外のお仕事関係の調べ事と、ラッキーであれば、〈USA〉がセーリングに出て、それをサポートボートに乗せてもらって見る予定。

ちょこっとトオマケ

なので、今日の日記はここまで終わりますが、記録したことの整理を兼ねて、ちょっとオマケを。

これは、昨日〈USA〉のスキッパー/ヘルムスマン、ジェームズ・スピットヒルの話をBMWオラクルのコンパウンドに聞きにいった時に見つけた〈USA〉の精巧なモデル。すごく精密だ。この凝り様からすると、きっと2007年の横浜国際ボートショー出展用にと、RC44の模型制作を依頼したオランダのメーカーのものに違いない。あのRC44の模型は、ラッセル・クーツもすごく気にいっていた。

(photo by Kazu Nishimura)

あのRC44の模型の制作料が当時2万ユーロ強だったから、それからすると、この〈USA〉のモデルは、発注主も発注主であることだし、J24の新艇より高価であることは間違いなさそうだ。

凝りに凝ったこの模型のおかげで、ウイングがどのように立てられているのか、フラップをどのようなシステムで動かしているのか、をおおよそ理解できた。

下の写真は、2月8日、〈USA〉が浮かんでいるBMWオラクルの仮設ベースキャンプにあったフロートの船台、というか受け。

(photo by Kazu Nishimura)

後ろに案内係のお姉さんがソワソワしながら待っていて、「もう帰りのバスが出るよ」とせかすので写真がブレてしまったが、フロートの断面形状が分かる。かなり小さい。

BMWオラクルレーシングでは、技術陣は〈USA〉のフロートのことをAma と呼び、センターハルのことをVakaと呼ぶ。

アマはポリネシア語でアウトリガーカヌーのフロート、もしくはダブルハルのカヌーの場合は左舷側の船体を指す言葉だ。ヴァカ若しくはワカ若しくはワタは、広く太平洋の航海民の間では「カヌー」を指す言葉だ。

ついでに言うと、日本神話に出てくる海の神である「わたつみ」は、ポリネシア語では「木のカヌー」の意にもなる。

BMWオラクルレーシングが、ポリネシアの船用語を用いていることに興味が沸く。〈USA〉のフロートが、ポリネシアのアウトリガーカヌーのフロートを思い起こすほど細くて華奢だからだろうか?

下の写真は、アリンギのパブリック・スペースの入り口にモニュメントとしておかれている〈アリンギ5〉のS字型ダガーボードの旧モデル。

写真に写っている内側(海中に入っていくと上側になる)面のキャンバーが裏側よりも大きく、先端部が上向きの揚力を、中間部が風上側への揚力を発する形状になっている。一人ではとても持ち上げられないくらい重い。

(photo by Kazu Nishimura)

(photo by Kazu Nishimura)

(photo by Kazu Nishimura)

右の写真が、ダガーボード上部にある、ボード上げ下げ用のシステム。ダガーボード内にセンサーが埋め込まれているらしく、ケーブルが何本かボード内から出てきていた。

(レポート/西村一広  http://www.compass-course.com

アメリカズカップ・スペシャル・レポート6

2010年2月11日 木曜日

2月10日 バレンシア その2

実はまだ、海に出ていない。

ポート・アメリカズカップの陸上本部に、アンサリング・ペナント、APが掲揚されている。防衛艇、挑戦艇、ともに出艇していない。

アンサリング・ペナントが降下されてから3時間以降に予告信号が発せられる。今吹いている北風が落ちてシーブリーズが入ってくる、という予報と、今の北風は落ちない、という、矛盾する2つの予報があるらしい。また、今の問題は風そのものではなく、昨日から吹き続けた北風によるうねりが大きいことなのだという。

午前10時を過ぎたが、気温は夜明けの頃よりも逆に下がってきているように感じる。これだけ寒くて、シーブリーズが入ってくるものなのだろうか?

2月10日 バレンシア その3

現地時間正午。

陸上本部の屋上のフラッグ・ポール。アンサリング・ペンダントの下に、Aが揚がった。本日予定されていた第1レースは、再び次レース日に延期されることが決定した。ガクッ。(レポート/西村一広 http://www.compass-course.com

さみしく翻るAP旗(photo by Kazu Nishimura)

アメリカズカップ・スペシャル・レポート5

2010年2月11日 木曜日

2月10日 バレンシア

今日で2月も中旬に入った。

2月1日は、まだ伝統航海カヌーのホクレアに乗ってハワイ沖を航海していたが、なんだかそれが、ずいぶん昔のことだったように思える。

今日は、防衛者、アリンギのドックアウト(出艇)風景を見に行く予定。

昨日の夕方、レースコミッティーは、

「本日、午前11時54分以前に予告信号が発せられることはない」と発表した。

少なくとも午前中は風が強過ぎて、レースができない公算が高く、レース艇が無駄に海上で過ごす時間を増やさないため、との理由だ。ウイングマストを立てている〈USA〉にとっては、とくにありがたいコミッティー判断だろう。

風が予報よりも長く続いて、午後も強く吹き続けるようなら、本日のレースが再び延期されることも有り得ることになる。

〈アリンギ5〉は、昨日のレイデイを利用して、長くテストしてきた直線の保守的なストレートな形状のダガーボードを外し、進水当初に装備していたS字型のものに変えた。

S字型のダガーボードは、風下側の船体を揚力で上方向に持ち上げてよりパワフルなセーリングを可能にする。その替わり、微風のクローズホールドでのリーウエイは、直線のダガーボードに比べると増える。微風のクルーズホールドでの性能よりも、より強い風でのリーチング性能を求める、ということなのだろうか?

つまり、今日、2月10日のレースが強風になる(天気予報では、そのように言われている)と確信したのだろうか? おそらく、自分たちが一方的に設定したレース・コンディション(海面上60メートルの高さでの風速が15ノット未満、波高1メートル未満)では、直線のダガーボードのほうが優れているのだろう。しかし、それ以上の風速、波高のコンディションでレースをやらなければならないとすれば、S字型ダガーボードのほうがいいかも、ということなのだろうか?

朝の出艇時に、このことについて話をしてくれそうなアリンギの誰か(トム・シュネッケンバーグか、グラント・シマーかな?)に会ったら、まわりの空気を読んだ上で、素早く聞いてみよう。

〈アリンギ5〉がS字型ダガーボードをテストしていたのは、進水後比較的短期間で、それ以降はずっと直線形のダガーボードでセーリング・テストを続けていた。S字型ダガーボードの機能(ダガーボードの上げ下げのシステムは複雑で、しかもセーリング中ここには非常に高いロードが掛かる)の信頼性や、セーリングデータは充分にあるのだろうか?

〈アリンギ5〉のサイズのヨットにとってダガーボードの取替えは、大型クレーンを使っての大仕事になり、出艇直前の短い時間でできることではない。

「レースでテストをするな!」という教えは、オプティミスト・ディンギーでレースをする少年少女たちでも知っている、ヨットレースにおけるゴールデン・ルールだと思っていたのだが……

では、続報は海から上がってきてから…(つづく。レポート/西村一広 http://www.compass-course.com