2013年開催予定
第34回アメリカズカップについて(その3)

アメリカズカップの行方は…… photo by 34th America's Cup

第34回アメリカズカップの議定書(プロトコール)が発表された。アメリカズカップの動向に詳しい西村一広さんに解説をお願いした。数回に分けてのブログ掲載となる。(編集部)

(1)第34回アメリカズカップ議定書の基本理念(その2)

アメリカズカップ艇のメインセールのトップに掲げられたロゴマークや、その他アメリカズカップに関するすべての知的財産権と版権は、これまではアメリカズカップ・プロパティズ・インク(ACPI)という法人が保持し、その経営権は1986年以降、防衛者から防衛者へと引き継がれてきた。

第33回アメリカズカップの防衛者だったスイスのアリンギとそのヨットクラブは、今年2月の巨大なマルチハル艇による一騎打ちで破れた後1カ月が経っても、新しい防衛者であるゴールデンゲイト・ヨットクラブ(GGYC)とBMWオラクルレーシングにその権利を譲渡しなかった。

GGYC側はアリンギがその手続きを進めるよう裁判所に訴え、その訴えが認められて、3月26日、アメリカズカップに関係するすべての知的財団権と版権を持つACPIの経営権は、現防衛者のGGYC側に委譲された。

その際、GGYC側は、その交換条件としてスイス側から要求されていた『第33回アメリカズカップでスイスが使ったセールは自国で作ったものではないため、贈与証書に違反している、という案件を含む3件の訴訟を取り下げること』に同意した。

さて、これまでの防衛者は、ACPIの経営権を持つことでアメリカズカップ関係の知財権を独り占めしてきたのだが、今回の議定書では、それらアメリカズカップにまつわる一切の知財所有権は、アメリカズカップ・レース・マネジメント(ACRM)がすべて引き継いで所有・管理することになり、ACPIという法人は存在しないものになっている。そして、第34回アメリカズカップによってそれらの版権使用料やレース開催で得た利益は、ACRMと参加した全チームとで分配する(平等分配ではなく、成績に応じて)ことも記されている。

まさに、「挑戦者側にもフェアなアメリカズカップを」と主張し続けてきたラッセル・クーツの言葉どおりの理念が見える部分である。(この項つづく)

番外・第34回アメリカズカップ最新情報

もう最新情報とは言えなくなってしまったが、10月1日、第33回アメリカズカップ挑戦を目論んで結成されたイギリスのレーシング・チーム、チーム・オリジンのオーナー、キース・ミルズ氏は「第34回アメリカズカップ挑戦を断念する」と発表した。その理由とは?

ミルズ氏は挑戦断念を発表した翌日、「様々な側面から第34回アメリカズカップ議定書とAC72クラスのクラスルールを検討した結果だ」とインタビューに答えており、その中で、レースフォーマットへの懸念が主たる理由だと述べている。

私には、ミルズ氏の今回の決断にもっとも大きく関わっているのは、開催年が2014年から2013年に早まったことではないかと、思われてならない。

ミルズ氏は、オリンピック招致活動の中心人物の一人としてロンドンオリンピックに深く関わっている。2012年のオリンピック開催年は超多忙になるはずだ。

第34回アメリカズカップがその数カ月後に開催ということになれば、ミルズ氏はオリンピック運営とアメリカズカップ挑戦チーム運営の二つをかけ持ちでこなさなければいけないことになる。現実的にそれは不可能だろう。

加えて、チーム・オリジンにはロンドンオリンピックでメダルが期待されているイギリス人セーラーが3人も所属している。スキッパーのベン・エインズリー(アトランタで銀、シドニー、アテネ、北京で3連続金メダル)、タクティシャンのイアン・パーシー(シドニーと北京で金メダル)、ストラテジストのアンドリュー・シンプソン(北京で金メダル)の3人だ。

もし2013年のアメリカズカップにチーム・オリジンが挑戦するとなると、この3人は、ロンドンオリンピックを諦めざるを得なくなる。オリンピックキャンペーンのために彼らがチームを去るという選択肢もあるが、ベン・エインズリーはイギリス人のプライドを示すチーム・オリジンの顔でもあり、少なくとも彼にはチームを去るという選択肢はない。

一つでも多くのメダルが欲しいイギリスのオリンピック委員会からミルズ氏にプレッシャーがかかったことは想像に難くないし、ミルズ氏自身にも、念願叶ったロンドンオリンピックで彼らにメダルを狙わせたいという強い気持ちがあることだろう。

防衛側はキャンペーンコストを少しでも抑えるために開催年を早めたと説明しているが、そのことによって急ピッチで艇の開発をしなければならないなど、逆にキャンペーンコストを引き上げるおそれがあるとの指摘もある。

開催地が発表されていない現在、開催年が今後変更されることはあり得ないことではないように思う。

アメリカズカップ http://www.americascup.com/
コンパスコース http://www.compass-course.com/

コメントは受け付けていません。