アメリカズカップ・スペシャル・レポート3

商業港にあるBMWオラクルレーシングの仮設キャンプで、第33回アメリカズ・カップ挑戦艇〈USA〉のドックアウトを見る。(レポート/西村一広、http://www.compass-course.com

2月8日朝6時。第1レースに向け出艇準備中の挑戦艇〈USA〉(photo by Kazu Nishimura)

 スペイン時間午前6時 

重量を少しでも軽くするために、申し訳ないがレースでは降りて欲しい、とスキッパーに言われてしまったチーム・オーナーのラリー・エリソンだが、元気よくクルー全員をハイタッチで激励して、沖に向かうクルーたちを見送る。

そう、ウイングマストを立てた〈USA〉は、常に風に立てておかなければならないため桟橋には係船できず、桟橋のすぐ沖にアンカリング中。

 それにしても〈USA〉のウイングマストの威容には、度肝を抜かれる。ヨットも、ついにここまで来たか、と思う。 

今日の第33回アメリカスカップ第1レースの予告信号は、午前10時予定。風速15ノット以下、波高1メートル以下でなければレースを行なわないという、防衛者側が一方的に定めたコンディションはジュリーから認められず、レースを行なうか否かの判断は、レース委員長のハロルド・ベネットにすべて委ねられることになった。

 第1レースのレースコースは、往復40マイルの上下一周のコースで行なわれる。一辺20マイルもの広大なレースエリア、45ノットものスピードでマニューバリングする2隻のモンスターヨット……

 第32回アメリカスカップで見事なレース運営を見せたベテランのコース・マーシャルも、「正直なところ、明日一体どんなことが起きるのか、イメージできないで困っている」と言う。スタートから風上マークまで20マイルという距離は、例えば相模湾の東西方向の距離にほぼ匹敵する。

 〈アリンギ〉のコーチを務めるエド・ベアードは、「スタート前にもしサークリングが始まるとしたら、恐らくそれはスタートラインから1マイルか、それ以上離れた場所で起こるだろう」と予想している。

 リーチングで40ノットで走る2隻が、1マイルの距離を走るのに要するには僅か1分30秒。通常のマッチレースのタイミングでサークリングを解いてスタートラインにアプローチを開始するとすれば、必然的にラインから1マイルは離れていなければならなくなるのだ。

 レースは延期

 さて、今現地時間16時。第1レースの結果はいかに!

残念、本日のレースは延期されました。風向が定まらない、との理由だ。

メディアボートは上マークで待機していたが、8ノットから10ノットの、南西のいい風が吹いていた。ところがそこから20マイル離れた沖合いでは、風向が不安定で、風速も弱かったらしい。

 再び、この距離感を相模湾になぞらえてみると、上マークがある初島ではすごくいい風が吹いているのに、スタートラインがある葉山沖の風が弱く、スタートできなかった、ということになる。

20マイルも離れるとVHFも届かず、レース・コミッティーはこれからも大変な苦労をすることになるのだろう。

 因みに、メディアボートは上マークに待機していたが、防衛艇と挑戦艇のどちらの姿もまったく見ることができなかった。よく考えてみれば、いくらマストの高さが60メートルあるヨットだとは言え、葉山にいるそれを初島から見える訳ないですよね。

 興味深い話をひとつ。

本日のレース延期が決まった後、メディアボートに映されている2隻の航跡を示すバーチャル・アイのデータを見ていると、2隻がしばらく走り合わせをしていた。どれほど本気モードの走り合わせかは疑わしいが、挑戦艇の〈USA〉が15ノット強のスピードだったのに対し、防衛艇の〈アリンギ5〉改め〈SUI〉のスピードは常にそれより1ノット近く下回っていた。ま、ただの話題に過ぎませんが……

メディアボートの1隻でレース解説を担当するのは、オリンピック金メダル3つのヨハン・シューマン(photo by Kazu Nishimura)

BMWオラクルレーシングのコンパウンドでは、メディアやスポンサー・ゲストに優雅な朝食が振舞われていた。早朝なのに、シャンパン、ワイン、ビールも並べられていました(photo by Kazu Nishimura)

コメントは受け付けていません。