緊急時などでレース中のエンジンの使用が認められます ―安全な外洋レースのために―

 

エンジンの使用の条項の新設
   最新のルールブック(RRS2009-2012)から規則42.3(h)が新設され「帆走指示書で規定された状況において、艇がそのレースで明らかに有利にならない場合には、エンジンまたは他の方法で推進することを許可することができる。」が明記されました。
   もちろんヨットレースは風と水のみを用いて競技せねばならないので、レース中はエンジンを使ってはいけないことになっています。エンジンを搭載しているレース艇は、スタート海面まで機走して来ても、予告信号までにはエンジンを切ることが必要です。
   しかし、海外では過去からファストネットレースやシドニー・ホバートレース、世界一周レースなど本格的な外洋レースで、一度避難してから再度レースを続行できる規定とともに緊急時や荒天時のエンジンの使用が帆走指示書などで認められてきました。旧NORC時代の外洋レース規則でもエンジンの使用が規定されていました。
   ただし、過去のIYRRやRRSでは、推進方法でエンジンの使用が可能と解釈できる条項がなく、エンジンの使用を記載している帆走指示書自体がルール違反ではないかと見る向きもありました。とくに推進方法についてレース中に海上で厳しくペナルティを課すようになってきたので、レース中のエンジンの使用などもってのほかと思われる方も多かったと思います。

 

エンジンの使用の規定方法
   たとえば長距離の外洋レースでは天候の悪化に遭遇したり、細かい操船が不可能な大型船が迫って来ているのに、風が弱かったり潮が強くて大型船を避けられない事態に陥る可能性があります。外洋でなくても大型船が次々と行きかう海域を横切らなければならないレースもあります。
   このようなことが想定されるレースでは、新設された規則42.3(h)を活用して、帆走指示書でエンジンの使用を規定して、危険を回避することが危機管理上重要です。ではどのように規定すればよいのでしょうか?
    最新の外洋レース規則2009(2009とありますが、作成が2009年ということで、次の外洋レース規則改定まで有効です)を適用規則にすると、その第3条で「エンジンの使用」が規定されているので、帆走指示書内で記載しなくても緊急時のエンジンの使用が認められます。
   外洋レース規則2009を適用規則にしない場合は帆走指示書で記載することが必要ですが、その際、外洋レース規則2009第3条(下記)はRRS規則42.3(h)を踏まえた記述内容になっており、帆走指示書の記載内容の参考になります。

「外洋レース規則2009 第3条 エンジンの使用」
『落水者救助、遭難艇(船舶)救助、他の船舶との衝突回避(緊急避難)、離礁その他の緊急かつ切迫した事態に対処するためにエンジンを使用することができる。(RRS42.3(h)参照)
但し、エンジンを使用した場合には、その状況(使用した目的・時間・場所等)について、フィニッシュ後レース委員会に速やかに報告しなければならない。』

 

レース艇がレース中にエンジンを使う場合には
   レース中、緊急事態や荒天対応でエンジンを使う場合、緊急避難に必要な最低限の時間、方向、距離で使うのが基本です。次のマークやフィニッシュに対して明らかに有利な方向に使ってはいけません。そして、必ずレース委員会にその内容を報告することが必要です。なお、レース委員会は不適切なエンジンの使用方法だと考えたら、抗議をすることができます。
    本格的な外洋レースや船舶が行きかう海域でのレースでは、万が一の事態でも安全なレースができるように、是非、帆走指示書で規則42.3(h)を適用してエンジンの使用を規定してください。(大村雅一 JSAFルール委員会副委員長)

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